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病院のM&A事情を徹底解説!医療関係のM&Aの実態とは?

医師

1)病院M&A医療業界の現実とは?

病院M&Aが近年盛んになっている理由には、社会保障費の増大に伴う診療報酬の引き下げがあります。多くの病院の経営が苦しくなる中で毎年増える社会保障費にチャンスを見て新規参入を図る企業もあります。

この両者を結び付ける手段として病院M&Aが注目されています。

【1】病院を巡るM&Aの動向

病院や診療所の経営が苦しくなる一方で65歳以上の高齢者人口は2018年実績で3461万人であり、この人数は今後も増加し続けて2042年には、3878万人に達してピークを迎えると推計されています。

一般的には年齢が高くなるにつれて人口あたりの受診率は高くなり患者数は増加します。ですので、今後も患者数の増加が続く事が見込まれます。

受療率が高い高齢者が増加している事で、社会保障費も増加の一途を辿っています。2018年度の社会保障費は予算ベースで※121兆円で、その中で医療と福祉・その他が占める割合は64・5兆円。2017年の自動車業界の市場規模の53兆円を超えています。

ニュースで取り沙汰される頭の痛い社会保障費の増大ですが、裏を返せばビジネスチャンスでもあるわけです。

※社会保障給付費の推移‐厚生労働省

【2】新規参入が難しい医療業界の特殊事情

2042年までは伸び続ける社会保障費、それならM&Aなどしないで医療業界に飛び込めばよさそうですが話は単純ではありません。

それは他業種と違い医療分野は規制業種であり、新しく病院を開設するには開設する地域の都道府県知事の許可が必要になるからです。それも、申請すれば認可されるわけではなく認可されない可能性もあるのです。

(1)医療計画により地域のベッド数は決まっている

医療業界への参入障壁とは一体何なのでしょうか?それは、医療法などに定められた病床数や人員配置基準ですがそれらは病院m&aで解消できます。

病院を開設・増床するためには、医療法7条の定めでその開設地域における都道府県知事の許可が必要です。しかし、地域の既存病床(ベッド)数が基準病床数を上回る場合、知事は病院の開設・増床を認めない事が出来ます。

これは、都心にのみ病院が集中し病床が過剰になる事を防ぎ、医療過疎地域を無くすための措置ですが新規事業参入者にとっては大きな障壁になっています。

(2)人員配置基準

医療法施行規則19条では、病床の種類ごとに必要な有資格者の配置基準を定めています。この人員配置基準がある事に加え、診療報酬においても有資格者の配置状況に点数が適応していて人材の確保が病院経営には重要です。

日本では看護師免許の保有者数は足りていますが、医療現場では人手不足が続いており新規参入業者の障壁になっています。

(3)病棟に付属する施設が高額

医療サービスの提供には、診察室や処置室、病床以外にも、CTやMRIのような高価な医療設備も必要です。もちろんリースもあるのですが、これらの高額な医療設備を買いそろえるのは新規参入事業者にとって初期投資を抑えられない要因になっています。

新規参入業者は予期せぬアクシデントに備えてコストを抑えるので、初期投資に莫大な金がかかる医療業界は高い壁です。

【3】病院M&Aが障壁を解消する!

病院M&Aでは、売り手と買い手、双方にメリットが生じます。

売り手目線では、後継者不在の問題を解決し地域医療を存続させつつ雇用を守れますし、買い手の資金力で資金調達が出来れば老朽化した建物を建て替え、診療報酬の改定や消費税増税などで悪化した資金繰りが改善されます。

また、借入金の担保や個人保証からも解放されて身軽になる事も出来ます。

一方で買い手の目線からは、需要・供給力がある都市部にM&Aによって新規進出でき、買収した病院のブランド力を元に医師・看護師の採用などで有利になります。

同じ地域の医療法人による買収なら、間接部門や検査・手術室などの床面積割合を低下させて設備効率を向上できます。

病院M&Aの一つである合併や出資持分譲渡という方法なら買収した病院の経営を全て引き継げるので病床数の規定にもかからず看護師の数も確保できます。

また買収した病院のノウハウを活用する事で異業種からの参入も可能であり、例えば、観光産業がM&Aをする事で海外からの富裕層に観光を楽しんでもらった上で傘下の病院で健康診断を受けてもらうなど、メディカルツーリズムによるシナジー効果も期待できます。

2)病院M&A医療業の定義とは?

病院

一口に病院M&Aと言っても、病院と診療所には法律上の明確な区分があります。規制業種である医療業がどう分類されているか見てみます。

【1】医療業とは?

医療業とは、日本標準産業分類において「医師又は歯科医師等が患者に対して医業又は医業類似行為をする事業所及びこれに直接関連するサービスを提供する事業」とされています。

そして、医療業は主に病院と診療所によって行われます。

(1)病院とは?

日本標準産業分類における病院とは、医師または歯科医師が公衆または特定多数人のために医業または歯科医業をする場所で20人以上の患者を入院させるための施設を有するものをいいます。(医療法1条の5第1頂)

(2)診療所とは?

診療所は医師・歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業または歯科医業をする場所であって患者を入院させる為の施設を有しないもの、または19人以下の患者を入院させるための施設を有するものをいう(同法1条の5第2項)病院と診療所(クリニック)の違いは、「患者20人以上の入院施設を有する」かどうかです。

それから病院は保有する病床の種類によって、一般病院、結核診療所、精神科病院等、名称が異なります。

3)病院M&A医療法人は4種類

積み木

医療法人は開設主体が多種多様にわたっている業種でもあります。国、個人、地方自治体、社会福祉法人、日本赤十字、厚生連、企業、学校等医療法人は類型が細分化されており開設主体ごとに病院M&Aの進め方も違います。

【1】社団たる医療法人

現在、医療法人の中で最大の%を占めているのが社団たる医療法人です。5万3000を数える医療法人の中で社団たる医療法人が52625法人を占めています。現在、日本に存在する医療法人の99%が社団たる医療法人と言えるでしょう。

(1)出資持分のある医療法人とは?

病院M&Aの対象である医療法人の大多数を占めるのが社団たる医療法人ですが、平成19年施行の医療法改正で新規設立は出来なくなりました。ここでは、その理由についても解説します。

※平成29年現在、社団たる医療法人は出資持分のある医療法人40186法人と出資持分のない法人12439法人に別れます。

この出資持分のある医療法人とは、定款に出資持分に関する定めを設けている法人を言い、㈰社員の退社に伴う出資持分の払い戻し、㈪医療法人の解散に伴う残余財産の分配

以上2点についての定めが定款に存在しています。

※種類別医療法人数の年次推移 – 厚生労働省

(2)出資をした社員の権利

出資持分のある医療法人には、㈰出資をした社員と㈪出資をしていない社員が存在します。

出資をした社員は、退社した時に出資分の払い戻しを受ける権利と解散時に残余財産の分配を受ける権利を持ちます。

しかし、会社に剰余金が蓄積していった結果、出資持分が多額になると相続財産としての課税も多額になり納税負担が重くなっています。

(3)出資持分の定めのない医療法人へ移行

病院は地域の医療を担う重要な機関なので、出資した社員の退社や法人の解散後も存続が望まれますが、多額の相続税支払いに等により病院存続が難しくなるケースが出てきました。

そこで医療法人の相続財産を課税対象から除外する為に「出資持分のある医療法人」から出資持分のない医療法人」への移行が対策として考えられました。

その方法は、医療法人の出資者全員が出資持分を放棄して、定款上の払い戻し請求権の規定の削除と解散時の残余財産の帰属先を国等に帰属すると定款を変更するものです。

出資者全員が放棄した出資持分については、相続税法上では持分の定めのない医療法人がその経済的な利益を贈与によって取得したと見做されます。

これにより相続税は免除されますが、持分を放棄した者の親族やこれらの人々と特別の関係のある者の相続税や贈与税の負担が不当に減少する結果と認められる時には、その部分については、医療法人を個人とみなして贈与税が課される可能性もあります。

国は、平成19年の医療法改正により出資持分のある医療法人の新規設立を不可にし、既存の出資持分のある医療法人については当分の間は存続する経過措置を取っています。

その為、出資持分のある医療法人は「経過措置型医療法人」と呼ばれる事もあります。

【2】その他の医療法人

ここでは、社団たる医療法人(経過措置型医療法人)以外の医療法人について解説します。

拠出型医療法人(基金)特定医療法人、社会医療法人の3種類があります。

(1)拠出型医療法人

拠出型医療法人は、平成19年4月1日以降に設立される医療法人です。解散時の残余財産は国また地方公共団体に帰属します。

(2)特定医療法人

租税特別措置法に規定する医療法人で定款に持分の定めがないもの。特定医療法人の承認を受けると法人税率が軽減(19%)されます。

(3)社会医療法人

公益性を追求した医療法人で定款に持分の定めがないもの。救急医療等の実施が義務付けられ、医療保険業は非課税です。収益事業は軽減税率(19%)が適用されます。

4)病院M&Aの3つの手法

病院 先生

病院M&Aは合併と出資持分譲渡、それに事業譲渡だけで、株式会社における会社分割や株式交換・株式移転のような再編方法は取れません。

ここでは、医療業界特有のM&A枠組である合併・出資分譲渡・事業譲渡の3つを見ていきます。

【1】出資持分譲渡によるM&A

医療法人のM&A手法で多く採用されているのは、出資持分譲渡です。

合併や事業譲渡は行政の許可が求められ、また比較的に手続き期間が長いのに対し、出資持分譲渡は理事長含む役員の変更届けと理事長の変更を登記すれば終わりです。

具体的には、医療法人の最高意思決定機関である社員総会で議決権を有する社員と取締役会に該当する理事会の理事、及び代表者である理事長を交代すれば医療法人格を存続したままで経営を引き継ぐ事が出来ます。

(1)出資持分譲渡のメリット

病院M&Aにおける出資持分譲渡のメリットとデメリットには以下のような事があります。

買い手にとっての出資持分譲渡のメリットは、医療業界新規参入の主な障壁である㈰医療計画により地域のベッド数は決まっている㈪人員配置基準を満たす必要がある病院に付属する施設が高額、このような頭の痛い問題を全て解消できるという点です。

出資持分譲渡は経営者を交代して引き継ぐだけなので、病院も職員もそっくりそのまま残り病院のブランドを維持したまま営業を続ける事が出来ます。

(2)出資持分譲渡のデメリット

一方で出資持分譲渡にはデメリットもあります。経営を引き継ぐという事は契約を包括的に引き継ぐ為、消滅する医療法人の簿外債務も引き継いでしまうのです。

医療法人では決算書に載っていない負債は無さそうですが、実際はそうではない場合もあります。

例えば高額な医療機器リース料の簿外債務や法人税や消費税の経理ミスによる簿外債務、従業員に対する未払い残業代も簿外債務になっているケースもあります。

経営を引き継いでしまってから、これらの簿外債務が発覚した場合、支払い義務は現医療法人が負います。

【2】事業譲渡によるM&A

事業譲渡によるM&Aでは、病院の新規開設と廃止の手続きを同時に行います。

包括的に契約を引き継ぐ出資持分譲渡と違い、全ての契約を結び直すので引き継がない業務と引き継ぐ業務を選ぶ事が出来ます。

しかし法律上は新規病院事業の開始ですから病床の引継ぎなどは出来ず、一度都道府県に病床枠を返した上で再度病床数を申請します。また、医療法人が補助金等を受けている場合には返還しなければならない可能性もあります。

従来、時間がかかる為に人気のない手法ですが、出資持分のない医療法人が増加するにつれM&Aの数も増えてきています。

(1)事業譲渡のメリット

事業譲渡は近年増加しつつあるM&A手法です、その理由について説明します。事業譲渡M&Aの買い手にとってのメリットは、病院という事業財産のうちで好きなものを引き継ぐ事が出来る点です。

これは事業譲渡が新規の契約であり、事業の売り手と買い手が引き継ぐ資産と負債について個別契約を結ぶからです。

合併や出資持分の譲渡では病院の全ての事業財産を引き継ぐので赤字事業だからといって継承しないわけにはいきませんし仮に簿外債務があって多大な隠れ負債が発覚しても支払い義務は買い手に発生します。

事業譲渡であれば、不動産、医療機器、職員などは個別に契約するので隠れ負債が回避できます。

(2)事業譲渡のデメリット

一方で事業譲渡にはデメリットもあります。

第一に、新規事業になるので病床の引継ぎが出来ません。これは病床の権利が開設者である医療法人に与えられている固有の権利であり勝手に他人に譲渡できない為です。その為に売り手の医療法人が一度病床を返還して、買い手の医療法人が新たに申請します。

ところが、都道府県は医療計画により基準病床数を決めていますから、もしこれを超えている時には保留されます。それでは開業できないので、事業譲渡では事前に都道府県に相談してM&Aを進めないといけません。

第二には、保険医療機関の指定が遅れます。

買った側の医療法人は、保健所に新たに保険医療機関の指定申請をしますが、保健所の担当者が検査に来るまでに営業できる状態にしないといけません。

しかし保健所は申請許可を出すのが翌月ですから病院は営業可能な状態で、営業出来ないまま保険医療機関の指定が下りるのを待つ事になります。

ただし、病院の開設者が変更されたのと同時に引き続き病院を運営して患者が通っている場合には保健所に「遡及願い」を提出すれば遡って保険医療機関として指定されます。それでも事前に保健所に対して入念な説明がないと遡及されない事もあり注意が必要です。

第三には、看護師や債権者との交渉が発生する事です。

合併や出資持分譲渡と違い、事業譲渡は新規事業の立ち上げなので契約の締結を全てやり直します。その中で一番大変なのが、看護師や医師、受付社員との雇用契約の再締結です。

全く同じ雇用契約を結ぶとしても、従業員がこれまでの待遇に不満があれば再締結は出来ません。また、従業員は一度退職する形になるので退職金を支払うかも問題になります。

都道府県の病床引継ぎの条件には、従業員を引き続き雇用するという条件がつく事が多く雇用契約交渉が揉めると買い手にとっては悩ましい事になります。

第四には、病院に地権者がいた場合の賃貸契約の再締結があります。

大家さんが無条件でそのまま引き継ぎを了承してくれるなら問題はありませんが、通常は保証金を入れ直すときに、その20%の償却等を要求される事が多くあります。

例えば2000万円の保証金を差し替えると400万円が償却させられるのです。買い手としては、土地の契約が不可なら営業できませんから大家さんの言い分も、ある程度は飲まないといけなくなります。

【3】合併による病院M&A

病院M&Aの手法の3つ目は合併です。

これには、同地域の病院同士の合併、或いは大手大病院との合併の2種類があります。法的には二つ以上の法人が契約により存続する1つの法人に集約統合する、医療法に定められている唯一の組織編制行為です。

こちらは出資持分の譲渡と違い病床引継ぎも都道府県知事の許可を得る必要がありますが、補助金等の返還はなく元の院長を社員総会の理事長に加えるなどで済みます。

ここでは病院合併によるメリットとデメリットについて解説します。

(1)同地域の病院同士の合併

合併による病院M&Aについて見てみます。病院・医療法人の合併M&Aは同じ地域の病院同士が合併するというものです。それにより病床数を増やせ、スケールメリットを活かせます。

一般に地方へ行くほど高齢者の人口は想定的に増加します簡単に言うと過疎という事です。

しかし、一病院で受け入れる事ができる患者数には限界がありますので、同じ地域同士の病院が合併する事で地域内で受け入れる患者数を増やし売上が増加します。

もう一点は、病院同士の合併により規模が大きくなり資金力が増大します。

高価な最新医療機器を導入しやすくなり、老朽化した病棟施設を建て直すなど病院の規模を拡大する事が出来ます。

(2)大手グループとの合併

病院・医療法人の合併M&Aには、大手グループによる合併があります。

例えば、医療法人業界の大手、徳洲会等の大手の病院が規模の小さな病院を合併する等です。この場合の買い手のメリットとしては、新しい病院拠点を得る事があります。

医療行為の報酬は診療報酬制度により国が定めていて、病院が独自に価格を決められません。ですので他業種と違い、患者の単価を上げて売り上げを増大させる方法は取れないのです。

その為に売上増加の為には企業規模や拠点を拡大して患者数を増やすしかありませんが一から病院を建設すると莫大なコストがかかりますから合併により、中小の医療法人を傘下に組み込む事でコストを下げる事がベストです。

また、小規模の医療法人は大手グループの傘下に入る事で資金繰りがよくなり、施設の改築や最新医療機器が購入しやすくなり繁忙期などに大手病院グループより医師を派遣してもらうなどのメリットがあります。

中小医療法人には、後継者問題に悩む所もありますが大手法人に合併されれば、大手より後継者の医師を派遣してもらい地域も医療サービスが継続できます。

(3)合併によるデメリット

合併によるデメリットは、出資持分譲渡におけるデメリットと同じです。

新規事業の開始ではなく、病院事業を丸ごと引き継ぐ為に、旧医療法人の簿外債務を引き継ぎ思わぬ負債を抱え込む恐れがあります。

こちらは同規模の医療法人同士の場合には大きな問題になりますが、大手グループとの合併では相手の規模と資金力が大きく調査力も強いのでデメリットにはならないです。

そのような事情もあり、合併M&Aは大手医療法人が多用する手法になっています。

5)病院M&Aの評価方式は決まっていない?

救急病院

企業M&Aでは、買収しようとする企業の資産評価は「修正純資産法」「DCF法」「類似会社批准法」この3つのいずれかで行われます。しかし、病院M&Aでは決まった評価方式というのがありません。

【1】専門性と特殊性で評価算定しにくい病院の資産

現状、医療法人の資産の標準的な評価手法というものはありません。DCF法や時価純資産価格方式は、株式会社のM&Aでは定番の手法ですが、医療法人の評価には馴染まないのです。

例えばDCF法は、加重平均資本コストの算定が医療法人では算定が難しく公正な評価方式になりえません。

また時価純資産価格方式は、医療法人の主要な資産である医療設備が特殊性から換金価値で評価できない事や医療法人の事業価値は医師や看護師の質による所が大きいからです。

かつては、病床1つ1000万円など「病床マルチプル」と言われる手法が採用された事もありましたが、現在は病床だけで価値が付くことは少なくなっています。

しかし「修正純資産法」「DCF法」「類似会社批准法」以外の価値評価が存在するわけでもないので売り手の医療法人としては、買い手がどのような価値評価手法を採用しているかを確認する必要があります。

その上で病院の特殊性を知ってもらいM&A成立に向けた建設的な話し合いが出来ます。もちろん、「うちは病院で普通の会社とは違う」と主張するだけでは売却困難になります。

ですので前述の3つの資産評価手法から、もっとも妥当と考える手法を選択する必要があるのです。

(1)資産基準+営業権方式

ここからは、病院M&Aの資産評価の方法を解説します。基本は一般企業の資産評価法「修正純資産法」「DCF法」「類似会社批准法」と同じです。

時価純資産額+営業権(資産基準+営業権)方式で、資産の再取得価値を基準にして現在の純資産の時価を算定し法人の将来の収益を算出し資産価値を出します。

より具体的なM&Aでは、買収する医療法人の有形・無形の資産から負債を差し引いて純資産を出してこれに別途、営業権の有無の判定と価値評価を加算します。

中小病院のM&Aにおける法人価値算定方法として最もよく使われています。

(2)市場基準方式

市場基準方式とは、その名前の通り市場における取引価格を参考にM&Aっを行う事です。

1990年代以降、アメリカのみならず欧州や日本アジアでもM&Aが恒常的な市場を形成し市場価格が生まれています。これは病院でも例外ではなく、市場基準方式で売却しようという病院と同規模の病院の市場価格を標準に資産価値を算定する方法が生まれました。

(3)DCF方式

一般的な企業M&Aで多く使われている資産評価方式で、企業が生み出すフリーキャッシュフローの期待値を加重平均資本コスト(WACC)で割り引いた現在価値です。

この評価方法は、動態的な考えに立っていて買収する企業の事業計画に基づく予測損益計算書が基礎になるので戦略的な事業計画を持っている大病院の評価には有利ですが、小規模の病院の場合には、将来価値算定において不利になり馴染まない場合があります。

6)病院M&Aで買い手はどこを見ているのか?

病院

医療業界は、かなり特殊な業界ですから買い手がどこを見ているのかを知る必要があります。それにより、売り手はどこをPRすればいいかを把握し有利な条件で病院M&Aが出来ます。

【1】魅力的な診察圏かどうか?

病院の収益は点数制で国により決められていて、独自に高額なサービスを提供できません。従って収益を拡大するには、拠点を増やしてより多くの患者を獲得して獲得する点数を増やす事です。

なので、買収する病院の交通アクセスや競合病院・診療所の有無、一日の患者数を見ています。

【2】収益力は高いか?

買収しても収益が見込めない病院ではお金を払って負債を抱えるようなものです。その為に、病床稼働率(一定期間の入院患者数の延べ数÷一定期間の病床数)を見ます。

また平均在院日数の長さや診療単価の水準もチェックしています。本来、退院させるべき患者を引き留めて在院させる病院は収益力が低い事になり魅力薄になります。

【3】設備投資などが杜撰ではないか?

設備が旧式で通常備えられている医療設備がない、逆に病院規模にそぐわない高価な設備がある。安全面、サービス面であまり良い評判がない等は、売り手の病院の財務体質が悪化している恐れがあります。

このような場合、資金の借入期間と償却期間を調べます。

【4】職員の満足度

病院にとっての最大の資産価値は、医療設備ではなく実際にサービス提供する職員・医師、看護師です。医療従事者のモチベーションが極めて低いと長期的に患者数を集める事は出来ません。

そこで、売り手の病院の給与水準や定着率、退職率、医療サービスの質などを確認します。従業員のモチベーションが極端に低い時には、未払い残業代など隠れ債務も考えられます。

7)病院M&Aを進める上での注意点

病院で微笑む看護師

病院M&Aは赤字や後継者不足、病院の老朽化に悩む医療法人と医療事業の参入障壁に悩む新規事業者を結びつけ双方にメリットがある内容ですが、進める上では大きく4つの注意点があります。

【1】病院の職員や医師への情報開示

病院の資産価値は、医療設備や病棟よりも優秀な看護師や職員、医師に求められます。ですので、病院M&Aでは従業員の士気に影響を与える情報開示に慎重にならないといけません。

このような噂は大量解雇のようなネガティブな内容を持って院内を駆け巡り、結果従業員の大量離職に繋がる可能性があります。

M&Aが成立するまでは噂が広まらないように配慮し、成立後は素早く従業員の解雇なども含め、何が変わり何が従来通りなのかを開示する必要があります。

【2】時間軸を睨んでスピーディな対応

経営難にある医療法人では、金融機関との契約期日、資金繰りなどのリミットが存在する事が多々あります。理想的な買い手をいつまでも待って経営破綻してしまえば何の意味も持ちません。

そこで病院M&Aでは期限を区切り、いつまでに売り手を見つけてM&Aに漕ぎつけるという計画が重要です。

【3】適切な買い手を見つける

前述した事ですが、医療法人というのは法規制もあり、一般の企業の価値算定基準にそぐわない面を持ちます。ですので、売り手単独の価値を超える価値、つまり将来性を見極める買い手を探さないといけません。

これを実現するには、まずは売り手が買い手のメリットを把握しておく必要があります。

医療法人取得のメリットとは、例えば、地域を絞って企業進出し占有率を高めるドミナント戦略の実現、新規参入事業者への医療エリアの提供や医療従事者の確保、患者の紹介等、買い手がメリットを見出せるポイントをPR出来るかにかかっています。

また、他業種ではなく同じ医療法人を買い手に選ぶ事で認識共有をスムーズに進めM&Aを成立させる手もあります。

【4】売り手オーナーへの配慮

売り手の医療法人が経営難に陥っていると買い手は助けてやっているという意識になり、売り手よりも立場が上という認識を持ってしまいがちです。

それがM&A交渉の際に出てしまうと、売り手オーナーのプライドを傷つけてしまう事になりかねません。

院長先生として、これまで地域の名士だったオーナーは、総じて自負心が高い傾向があります。

このような事情を無視して交渉を進めると、いかに売り手にとって好条件を出していたとしても、M&Aが破談になってしまうのです。また、買い手はM&A後の売り手オーナーの生活面に注意を払う必要があります。

病院を手放した結果、オーナーには借金しか残らないとなれば病院にとっては好条件でもM&Aは成功しません。

買い手は売り手オーナーに対し生活が維持できる十分な退職金などを保証する必要があります。

8)病院のM&Aに関するQ&A

病院M&Aは近年盛んになってきましたが、規制事業であり公益性が必要な業種である為に通常の企業M&Aとは異なる点もあります。ここでは、そんな病院M&Aに関連するQ&Aを紹介します。

【Q1】病院M&A後に元オーナーに支払う退職金の上限はいくら?

M&Aをした病院の院長先生は、自分の持分を売った後に理事長を退任する段階で退職金を自分に支払います。その場合、法人税法上、退職金は以下が上限とされています。

※最終月額報酬×在籍年数×功績倍率(3倍)

上記の計算式は上限で、これよりも少ない退職金の金額であれば問題ありません。

また、個人経営の病院の場合、院長先生の配偶者も理事に就任していて同時に退任する場合があります。ここで配偶者にも退職金を支払う事が定款で定められている時には、功績倍率を2倍程度に設定します。

しかし、退職金は所得税が安いので、院長先生がお手盛りで退職金を高めに支払う事があります。

その場合、後で税務調査が入った時に過大な支出は経費として認められず課税されますが、院長先生の退職金はそのまま認められ所得税が上るような事はありません。

買い手が一方的に損をする事になりますので、院長の退職金については適正に支払いがされているかチェックする必要があります。

【Q2】病院経営を圧迫する7対1看護配置とは何?

現在、日本は60歳以上の人口が約30%という超高齢化社会に突入し社会保障費負担の増大と少子高齢化の税収減から医療制度改革による診療報酬の切り下げが続いています。

この中で質の高い医療を求める為に、国が打ち出したのが「7対1看護配置」で1名の看護師で患者7名に対応する制度です。

これをクリアすると高く設定された診療報酬を受ける事が出来るのですが、できなければ診療報酬が低く設定される事になります。

具体的には、10対1や13対1など看護師一人に対応する患者数が増える程に診療報酬が低下します。

看護師の供給が多ければ問題はないのですが、勤務の過酷さから病院勤務を避ける看護師も多く、夜勤や当直がない診療所や美容系のクリニックに勤務を希望する看護師も増加傾向です。

医療業界は慢性的な看護師不足であり、「7対1看護配置」が実現できず収益が減少し経営が悪化する医療法人も出ています。

その為、自力再生を断念し資金を求めて病院M&Aに望みを託すケースが増えているのです。

【Q3】持分のない院長先生にはどうやって退職金を支払う?

かつては、社団たる医療法人のほとんどが病院開設時に出資金を振り込んだ持分を持つ社員で構成されていました。

しかし、現在では多額になる税金等の問題により、自分の持分を放棄して出資持分の定めのない医療法人に移行した法人も12439社に上ります。

そのような持分のない医療法人の場合、理事長を退任する院長先生は持分を持ってませんから退職金の原資がありません。

こうしたケースでは、新しく法人のオーナーになった院長が病院にお金を貸し付けてそれを原資に退職金を支払います。

ところが法律により、オーナーは病院に直接資金を貸し付ける事も、院長先生にお金を貸し付ける事も出来ません。

そこで、オーナーは最初病院から給与をもらい、それを貸し付ける事で原資にして院長先生に退職金を支払います。

この場合、オーナーは病院から給与を得た時点で多額の所得税を支払わないといけなくなり資金効率は悪くなります。

こちらは出資持分譲渡によるM&Aのケースで、事業譲渡によるM&Aではこのような事は起こりません。

9)この記事のまとめ

病院M&Aについて、まとめると

【1】少子高齢化により、税収が低下する一方で社会保障費が増大し国は社会保障費削減の為に病院の診療報酬を引き下げた。

それに加えて看護師不足や建物の耐震化、後継者不在等で病院は苦しい経営を強いられている。

【2】社会保障費の増加は新規参入業者にはビジネスチャンスだが、病床数の制限など

規制事業である医療業界への参入は障壁が高く、これをクリアする方法として病院m&aが盛んに行われるようになっている。

【3】病院のM&Aには、出資持分譲渡、事業譲渡、合併の3つの種類がある。

【4】病院M&Aを進めるには、従業員への情報開示、時間軸を意識した迅速対応、適切な買い手の選定、元オーナーへの配慮が必要不可欠。

以上の4点が理解のポイントになるかと思います。

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