日本国内の人口減少や少子高齢化が進む中で懸念されているのが、個人事業や中小企業を中心とした人材不足や事業継承ができないという問題です。こうした企業の問題を解決するためにM&A(Mergers and Acquisitions)、つまり「合併」や「買収」という選択肢を選ぶ企業が増加傾向にあります。
自社の将来設計を構築する上でM&Aを検討するメリットや買収額の算定方法について把握しておきましょう。特にこの記事では、M&Aにおける「買収」について解説していきます。
1)M&Aとは?買収を検討する意味合いと見方について
M&A(エムアンドエー)は「Mergers and Acquisitions」の略で、「Mergers(合併)」や「Acquisitions(買収)」を意味します。
会社が他の会社を買い取る「買収」と2つ以上の会社が1つになる「合併」に加え、広い意味として複数の企業が協力関係となる「提携」を指す場合もあります。
【1】買収の方が合併よりも圧倒的に多い
日本の中小企業の場合、合併よりも買収が圧倒的に多い傾向があり、M&Aというフレーズからは「買収」をイメージされる方がほとんどでしょう。
その背景には、買収の場合、買い取られた会社がそのまま存続するということや、経営再編をする上でスピーディーに物事が進むなどのメリットがあります。
【2】経営戦略のひとつとして買収が選ばれている
「会社を乗っ取られる」というかつてのM&Aに対するイメージは変化しており、現在においては「経営戦略・事業拡大の手段」として捉えられるようになってきました。冒頭でも触れたように、深刻化する人材不足や継承問題を効率よく解決する手段として注目されています。
では実際にM&A(買収)を検討していくにあたり、買収する側とされる側それぞれのメリットをチェックしてみましょう。
2)M&Aで買収される側のメリット

買収される側のメリットとしては、事業継承に関する問題が解決することや販路拡大などが挙げられます。会社が抱えている問題が何なのか、どうすればその問題を解決できるのかを整理しながらチェックしてみましょう。
【1】事業継承の問題解決
中小企業の経営者にとって問題となってくるのは「事業を継承できる人材がいない」という点でしょう。後継者がいない中小企業はおよそ半数と言われている中で、事業を継承できる人材を見つけることは至難の業と言えます。
そこでM&Aによる買収を受け入れることにより、事業継承問題を解決することができます。
【2】販路拡大と人材を含めた事業の成長
買収を受け入れ大手傘下のグループに加わることで、大手企業が培ってきたノウハウを生かすことができ、販路も拡大することができます。
また、勤めている従業員にとっても成長できる環境が増え、今よりも待遇が良くなることでひとりひとりの作業効率が上がることも期待できます。
こうした人材を含めた事業の成長が見込めるメリットは大きいと言えるでしょう。
3)M&Aで買収する側のメリット
次に、買収する側のメリットを考察してみましょう。
他社を買収するメリットとしては、短期間での新しい事業の構築や相乗効果を見込めるといった点を挙げることができます。今の会社が必要としている、もしくは不足している部分がどこなのか、どうすれば事業をより発展させることができるのかを把握してからチェックしましょう。
【1】新しい事業を短期間で構築できる
何か新しい事業を展開していくと考えた場合、拠点や人材を確保し・ノウハウの蓄積・顧客獲得などをゼロから構築していく必要があります。
その点、新規事業を買収によって得ることで、短期間のうちに事業を構築することができ、機会損失といったリスクも低く抑えることができるでしょう。
【2】シナジー(相乗)効果が見込める
既存事業と買収によって得た新しい事業をひとつの母体で展開していくことで、拠点や人材にかかるコストの効率化を図ることができます。
また、それぞれの事業で培ったノウハウを掛け合わせることで生まれるシナジー(相乗)効果にも期待できるでしょう。
4)買収の種類とメリット・デメリット

企業の買収にはいくつかの種類があり、それぞれにメリットやデメリットがあります。大きく分けて2つの種類に分類され「事業譲渡」と「株式取得」があります。
【1】事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡は相手企業に対して対価を支払い、会社の一部の事業を譲渡することです。
(メリット)
事業譲渡の場合、一部の事業を譲渡するため、必要な事業や従業員を手元に残し、不要な事業だけを引き継ぐことができるというメリットがあります。
また、買い手側からしても、隠蔽されている相手企業の債務などを引き継いでしまうというリスクを避けることができます。
(デメリット)
売り手側としては現金を得ることができますが譲渡益に税金が課されることや、負債の取り扱いに関して検討が必要となります。
買い手側としては、その事業に関わる取引先や従業員と契約を結ぶ必要がありますが、そこで同意を得られるかどうかというリスクがあります。
総合的に見て手続きが煩雑になる傾向があり、手間がかかるのがデメリットと言えるでしょう。
【2】株式取得のメリット・デメリット
株式取得は相手企業の株式を3分の1以上取得し、会社の所有権を得ることです。
(メリット)
株式取得におけるメリットとしては自由度が高いという点を挙げることができます。買収する際に取得する株式の割合を自由に決めることができるため融通がきき、手続きも比較的簡単に済ませることができます。
(デメリット)
自由度は高いものの、事業のすべてを引き継ぐことになるため、取得したい部分だけを限定できず、不要な範囲も含まれてしまいます。
また、貸借対照表に記載されていない債務や隠蔽されている債務(簿外債務)を負ってしまうリスクもあり、相手企業に対する十分な調査が必須要綱となります。
【3】友好的な買収と敵対的な買収がある
さらに買収には、相手企業からの同意の有無によっても種類が分かれます。
相手企業との合意を得ている「友好的な買収」と、相手企業と合意が取れていない「敵対的な買収」があります。
「敵対的な買収」は株式をTOBの実施により買い付けをする、または市場で買い集めることで、相手企業の経営陣から同意を得ることなく、会社の経営権を獲得するものです。
それに対して「友好的な買収」は、相手企業の同意と協力を得たうえで買収が進みます。
中小企業の買収に関しては、そもそも株式が公開されていないことが多いという点や、事業の仕組みを理解している従業員を納得させ、継続して働いてもらう必要があるため「友好的な買収」が一般的と言えるでしょう。
5)買収額の目安はどうやって決める?
実際にM&Aを経営戦略の1つとして捉え、買収を検討していく場合、どのように企業価値を算定し、買収額を決定するのでしょうか。
買収額を算定する上で知っておきたいポイントをまとめておきましょう。
【1】バリュエーション(企業価値評価)の実施
買収額を算定する上で必ず必要となってくるプロセスとしてバリュエーションの実施があります。バリュエーションを実施する目的は、企業価値を評価し、買収額を決定していく交渉の土台をまず作ることです。
企業価値がそのまま買収額になるという単純なものではありませんが、この土台となる基準があることで、買収額の交渉を始めることができるのです。
【2】中小企業の企業価値を評価する方法は?
株式上場をしていない中小企業の場合、指標となる市場価格がありません。その為、企業価値を評価するためのバリュエーションの方法として以下の3つを算出していきます。
(インカムアプローチ)
インカムアプローチは、将来的にどのくらいの収益やキャッシュフローを生み出すのかを考慮し、そこから考えられるリスクなどを割り引くことで企業価値を評価する方法です。
代表的な手法としては、事業計画を作成し、その企業が将来的に生み出すフリーキャッシュフローを予測するDCF法があります。
(コストアプローチ)
コストアプローチは、ネットアセットアプローチやストックアプローチとも呼ばれ、その企業の純資産を基準とする方法です。
貸借対照表の純資産価値をベースとして企業価値を算定するため、将来的な収益性などは加味されていません。そのため、廃業コストを削減するために行われるM&Aなどに使われる手法と言えます。
(マーケットアプローチ)
マーケットアプローチは、同業他社や似たケースで行われる取引事例から、経営指標をベースとして算定する方法です。
市場取引の実態から見た算定方法となるため、説得力は高いものの、株式市場が不安定になる可能性があることや、参考とする同業他社や他のケースのピックアップの質に左右されるというリスクがあります。
インカムアプローチによって算出された企業価値評価と照らし合わせるために使われることが多く、正確性をチェックするために使われています。
6)M&Aの買収に関するQ&A

M&Aの買収についてのよくある質問をピックアップしてみました。実際に買収を具体的に進めていく上で役立つのが仲介業者やアドバイザーの存在です。
ここでは、M&Aの仲介業者やアドバイザーに関するQ&Aをまとめていますので参考になさってください。
【Q1】M&Aに関する知識が全くない場合はどうすれば良いですか?
経営戦略の1つとしてM&Aの買収を検討するにあたって、経験や知識がないという方も多いでしょう。そういった経営者の味方になってくれる「アドバイザー」がいますので相談してみることをおすすめします。
M&Aアドバイザーは、買収する側とされる側のどちらかから依頼を受け、依頼者の味方となって買収に関するアドバイスをしてくれます。
必要な知識はもちろんのこと、M&Aを進めるうえで必要な書類の準備やスケジュール、企業価値の算定などにも精通しているため、経営者側に知識がなくてもM&Aの交渉を進めることができるでしょう。
【Q2】M&A仲介者とアドバイザーの違いは?
一般的にM&A仲介者とは、買収したい企業と買収されたい企業をマッチングさせる役割がメインとなります。アドバイザーは上記の質問でも回答しているように、買収したい企業や買収されたい企業のどちらかの依頼を受けて、依頼された企業にとって有利になるような形を提案することがメインになります。
どちらかというと仲介者は中立的な立場になりますので、アドバイザーとは立場上の違いがあると言えるでしょう。
【Q3】M&Aの費用としてはどんなものがあるの?
M&Aにかかる費用や種類に関しては、利用する仲介機関やアドバイザー、買収額などによって異なるため一概に決まったことは言えませんが、一般的に必要とされる費用の種類には以下のものを挙げることができます。
⇒着手金や評価料
仲介契約やアドバイザー契約を締結した時に支払うもの
⇒リテナーフィー
継続的に必要な業務に対して支払う手数料や報酬
⇒成功報酬
M&Aの買収に関する契約が企業間で締結されたときに支払う報酬
⇒最低報酬
仲介機関ではほとんどの場合、最低報酬額が決められています。
仲介機関自体を維持していくために設定されているもの。
仲介機関やアドバイザーを利用する際は、上記の費用がかかることを念頭に置いておきましょう。
7)この記事のまとめ
【1】M&Aの買収は経営戦略において重要な選択肢のひとつ。
【2】M&Aで買収される側のメリットは事業継承や企業の成長にメリットがある。
【3】M&Aで買収する側のメリットは短期間での新事業構築とシナジー効果。
【4】買収の種類とメリットを把握して自社に合った手法を選択しよう。
【5】買収額の算定はバリュエーション(企業価値評価)が重要。