M&Aが決まり、会社が売却されると知った時社員は何を考えるでしょうか?不安が大きくなると考えられます。勤めている会社は変わらなくても、経営者が変わりますので待遇面・労働環境・社風が変えられてしまうと思うのは人情です。
基本的にM&Aをする際、社員の待遇は最優先事項となっています。会社が買収できたとして、社員が集団退職してしまった場合経営が困難になるでしょう。こうしたことからも、売却企業は買収先での社員待遇についてきちんとした対応を求めるのです。
しかし、それはあくまでトップ同士の話であり一般社員にはM&A後に伝えられます。会社売却後に社員はどうなるのか?この記事では詳しく掘り下げて調べていきますので、会社売却されたという人にとって安心できる内容となるはずです。
1)会社としては必要なM&A

なぜM&Aをするのか?ここには理由が多々ありますが、共通して言えることは買収側も売却側もシナジー効果を狙ってM&Aを行っているということです。メリットがなければそもそもM&Aは実行されませんので当たり前のことと言えます。
では買収側・売却側双方はどのようなメリットを考えてM&Aをするのか、具体的に確認していきましょう。
【1】会社売却をしたい経営者
特に中小企業が多いですが、後継者不足というのは深刻な悩みです。家業として子どもに継がせていた時代には考えられないことであり、子どもが自分のやりたい仕事をと考え始めてからは後継者不足の傾向は増え続けています。
後継者がいない以上、事業は廃業にしなければなりません。しかし売却が可能であるなら、事業は継続され会社を清算することで経営者も利益を得られるという状況になります。M&Aが中小企業で増えてきている背景にはこのような事情があるのです。
【2】買収して多角化を図りたい企業
買収をしたい企業は、事業規模の拡大・多角化を目指して活動しています。ここには企業としての生き残り戦略があり、会社として利益を生み出していかなければ衰退していくのです。多角化するということは、事業分野を広げることになりますので新規で事業を進めるより既存企業を買収した方がコストも効率もいいと言えます。
【3】社員は蚊帳の外に置かれる
M&Aは企業のトップ同士で話が進みます。当然社員は話に加わることはありません。M&Aに社員が加わるとどうなるのか?まず必ず失敗しますし、情報漏洩が起きます。M&Aは情報が漏れないように進めていく必要があり、目的に反しているのです。
関わる人は少ない方がいいというのは極秘の打ち合わせなどでは鉄則であり、社員は蚊帳の外にならざるを得ません。
2)会社売却後の社員は待遇が変わる?

所属している会社がM&Aにより売却され新しい会社になりました、といきなり言われた場合誰もが戸惑い不安になります。会社に勤めていくことは同じでも、以前と違う違和感はなかなかなくならないでしょう。
会社が売却された後、社員の待遇はどのように変わるのか?良い結果・悪い結果両方について確認していきます。
【1】M&A後会社の組織文化が一新される
会社文化は、その会社によって違いますがいざ会社が買収された場合、会社文化は買収先の会社文化に合わせられることが多いです。例えば、買収される前まで共同体的な運営がされていた会社が買収後能力主義の運営になることも十分に考えられます。
ここの部分に関しては、会社の経営権が買収した会社にありますのでどうにもなりません。M&A後に買収した会社が配慮していかなければならない問題です。
【2】事業譲渡だと雇用の維持がされない可能性がある
会社売却だと雇用契約を継続することが条件に盛り込まれますが、事業譲渡だとこの部分は条件とはなりません。会社売却は会社が買収されますので、雇用契約を維持しなければ会社が機能しませんが事業譲渡の場合は違います。
事業譲渡は事業を切り売りするようなものなので、必ずしも雇用を維持する必要性はないのです。事業譲渡が行われる際、社員へ転籍合意書を締結するかどうか持ちかけられます。条件は変わる可能性が大きく、断った時は部門異動・退職の2択になるので社員にとっては不利です。
【3】M&A後給料が上がる可能性が高い
M&Aは通常買収側の規模が大きいため、買収企業の社員待遇が売却企業より良いことが多いと言えます。買収された企業の社員は、買収企業の待遇となりますので給与が上がる可能性が高いです。これは不安もありますが、考え方によっては収入が増えるので悪いことだけではありません。
とはいえ、継続して同じ待遇を受けられるという保証はありませんので、あくまでも高くなる可能性があるということです。
3)会社売却後の社員の心境は?

ある日突然会社が売却されたと知らされた場合、今後の仕事や環境はどうなるのか?雇用の維持は図られるのか?不安は尽きないでしょう。この結果M&Aをしてもシナジー効果を得られず、失敗に終わってしあうこともあります。
M&Aは企業というものを買収しますが、働いている人がいなければただの箱です。人がいてこそ会社は機能しますので、社員のメンタルをケアしていく必要があります。ではどういった心境になるのかを見ていきましょう。
【1】労働環境が変わりストレスになる
転職をして新しい職場に勤め始めると、慣れていないせいもあって疲れが溜まります。会社売却によって買収された会社の社員は、自分の意志とは関係なく他の会社へ転職させられるようなものです。会社自体は変わりませんが、労働環境が変わる可能性があります。
自分の意志とは関係なく強制的に変わるわけですから、ストレスも大きくなるでしょう。こうした面は買収した企業がケアしていかなければならない部分であり、メンタル面に配慮する必要があります。
【2】買収されたという劣等感が生まれる
勤めていた会社が買収され、買収先企業の傘下になるということは社員に劣等感が生まれる可能性があるでしょう。買収という結果だけを見ると、会社が身売りのように買われているということです。買収先企業の社員が配慮せずに接したなら、劣等感は深くなっていきます。
どこの会社でも、力関係によって他の部署を見下すなどの状況は見られるものです。仕方がないこととは考えてしまいますが、本来各部署とも同格のはずでしょう。力が強い部署を許してしまっている会社には責任があります。
特に買収された会社の社員はメンタル的にナイーブになっている状態です。この機会を利用して、各部署とも力を均等に公平にするべきだと考えられます。
【3】慣れていた部署から異動する可能性がある
これは売却されなくても起こり得ることであり、社員としては致し方ない部分もあります。しかし、会社の経営者が代わり、勤めている会社以外の関連会社へ異動となると話が変わるでしょう。同じ会社なら、顔を見たことがあるという安心感がありますが買収した会社では全く知らない人ばかりです。
この状況はストレスも溜まりますし、環境・仕事内容も変わりますので大きな負担となります。人によってはここで退職を決断してもおかしくはありませんので、細心の注意が必要です。
4)M&Aで売却された会社の社員へのアフターケア

ここまで、M&Aで会社が売却された場合の社員がどのような待遇を受けるのかについて詳しく考察してきました。買収した会社は、メンタル面のケアも考えなければ集団離職を招いてしまいます。買収後のアフターケアはどのように実施していけばいいのか?
社員にとっても会社にとっても、より良い具体的な方法を考えていきましょう。こうした取り組みは、M&Aを成功させる上でとても大切です。
【1】売却前と待遇を変えないと確約する
買収前より待遇が悪ければ、退職を誰もが考えます。これは労働者からすれば当然です。なぜ働くのかと言えば、生活していくために働いているわけですから待遇が悪くなるなら他の会社へ転職します。条件面で買収前より待遇を悪くしない、これが最低条件です。
M&Aの契約段階において、会社売却の場合は社員の雇用確保は必ず条件として出されます。ここに付随して、待遇も変えず更に給与も上げるなら退職を考える人は減るでしょう。給与が上がるということは、生活も楽になります。
社員の立場に立った対応が求められる部分です。
【2】環境の変化を少なくしてストレスを与えない
会社が売却され、会社の空気が一変して働きにくい環境になってしまった場合、社員は転職を考えます。働いていて気持ちよく仕事ができないような環境で、誰も働きたいとは考えません。買収した会社はこうした面にも気を配る必要があります。
例えば急に今までの方針と180度違うことを行うように言われたら、やる気を失います。今まで取り組んできたことが無駄になったと思うからです。環境の変化はストレスだけでなく、やる気も低下させてしまいますので労働環境は変わらないように配慮しましょう。
【3】売却された企業の社員を区別しない
これまでに書いたことですが、劣等感を生み出す土壌はこうして作られます。買収した会社の社員と買収された会社の社員という色分けをすることによって、差別が生まれるのです。世の中の差別も同じように言える部分がありますが、色分けはしてはいけません。
買収したとはいえ、同じ会社の社員となったのですから公平に扱うことを心がけましょう。公平に扱うことによって、社員間の差別意識・劣等感も薄れていきます。
【4】待遇をよくすることで安心してもらう
上記まででアフターケアについてお話してきましたが、何よりも大事なのは安心してもらうことです。不安を抱えたまま仕事をしては、集中して仕事ができないでしょう。戦国武将の武田信玄は、フレックスタイムを導入して部下に仕事をしやすい環境を整えました。
買収した会社は、今までと同じように仕事をしてもらえるよう安心できる環境を整えることが一番重要です。
5)この記事に関するQ&A

ここまでにご紹介できなかったことを、ここでご紹介していきます。売却された会社の社員にとって知っておくべき情報なので、参考にしてください。
【Q1】M&A契約時の不利益変更とは?
売却する企業が買収先へ契約段階で加える条件として、雇用を確保することがあります。これが不利益変更と言われるもので、社員が買収先で不当解雇などされないようにする処置です。しかし長い期間を要求することはできませんので、あくまでも数年単位となります。
分かりやすく言うと、電化製品の保証期間のようなものです。例えば5年なら5年間保証しますが、それ以降は保証しませんということと同じになります。
【Q2】会社売却後に買収側が気をつけるべき発言とは?
買収された会社の社員はただでさえ不安です。待遇がどうなるのか?労働環境が変わるのか?こうした不安を抱えている社員に対して、買収した企業が言ってはならない言葉があります。それは未定という言葉です。
会社から社員への説明の場で、社員の待遇は変化するのかという質問があるとします。回答として未定ですと言った場合、集団離職は避けられないでしょう。不安をあおるような言動は控えてください。
【Q3】社員にM&Aが伝えられるタイミングっていつ?
社員に対してM&Aが伝えられるタイミングは、会社の売却が決まった後です。全てが決まった後に伝えなければ、秘密厳守の交渉は物別れに終わるでしょう。社員の中で会社が売却されることを望む人はいません。事前に話せば集団離職に発展する可能性があります。
つらい立場ですが、全てが決定した後に伝えられるということは仕方がないことなのです。
7)この記事のまとめ
会社が売却された場合の社員について、どうなるのかをお話ししてきました。待遇はよくなる可能性が大きく、ストレスについても配慮しなければ集団退職を招く可能性があります。買収した企業はアフターケアが重要であり、待遇についても配慮する必要があるのです。
今後M&Aは増えていくと予想されますので、参考にしてください。
参考文献